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【2300円】白と黒に浮かぶ反骨精神『異端の奇才――ビアズリー』〜画業で生活をするということ

さて、前回までは、画業に専念するきっかけとなった大きな仕事についてご紹介してきました。波に乗ったと思ったら、O.ワイルドの影響を受けて失職するなどの憂き目にも遭ったりしてね。

ここからは、挿絵やポスターなどのほか、生活のためにあえて引き受けて制作していた作品や、同時代に少なからず影響を与えたであろう「アングロ=ジャパニーズ様式」などをご紹介します。ちょっと驚きの展示もありますので乞うご期待。

独自解釈で描く「エドガー・アラン・ポー作品集」

(上段左から)「モルグ街の殺人」、「赤死病の仮面」(下段左から)「黒猫」、「アシャー家の崩壊」|いずれも1894年頃|Kコレクション

白と黒でさまざまな機微を表した作品が、「エドガー・アラン・ポー作品集」。当初は8点の制作が予定されていたものの、作品集の発行が中止となったため4点に留まり、のちにポートフォリオとして発表されました。

この4点は「モルグ街の殺人」の一部を使用したパネル上に展示され、作品の中だけでなく、額縁や展示にも余白を感じさせるデザインで、世界観を表す工夫がなされています。

あらゆる製品に応用された「アングロ=ジャパニーズ様式」

展示風景

花草文や吉祥文のような日本の文物を、イギリスの作家や芸術家が熱心に集めるようになったのが1860年代。そのモチーフやデザインの原理を、作品の中に吸収していきました。「日本的な形を現代のイギリス人が欲するものに適合させた試みの結果」と言われた「アングロ=ジャパニーズ様式」は1870年代には絶頂期を迎えます。

1880年代までに「芸術のための芸術」を掲げる唯美主義運動の明確な特徴となっていった「アングロ=ジャパニーズ様式」。実際には、唯美主義が雑誌やコミック・オペラなどで皮肉られたときでさえ、批判的な注目が集まることで「アングロ=ジャパニーズ様式」への関心が高まったと言われています。

ドロモア城の書きもの机(1869年)|エドワード・ウィリアム・ゴドウィン|大阪中之島美術館蔵

中世風ながら、18世紀のジョージアン様式の家具を基調としているそう。支柱以外に一切の装飾が見られないすっきりとしたデザインです。見て、このピチッとした直線の美しさ。

その真っ直ぐな本体に対して、真鍮の把手や燭台などの曲線が美しく映えるという、シンプルで贅沢なコントラスト。オイル仕上げのオーク材のなめらかなツヤと直線と曲線は、ぜひ実物で堪能してください。美しい。

ポスターに見える時代と独自の“間”

「筆名叢書と本名叢書」の宣伝ポスター(1894年)|ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館蔵

広告という性質上、情報性と芸術性のどちらもが求められたのであろうと推察すると、“この時代の”ポスターなのかな、という見方もできるように感じます。

ロートレックを意識したような構図や色使いの作品が多く見受けられました。

R18のスペースがあるの?ビアズリーの消し去りたかった“よからぬ”絵

ワイルド裁判でイエローブックの美術編集職を追われたビアズリーは、生活のために“露骨に卑猥な”絵を進んで手がけていました。

中でも注目したいのが、1896年にレナード・スミザーズ訳で出版された「リューシストラテー」。

古代ギリシャの喜劇作家アリストパネス作。ギリシャで戦争が絶えなかった頃を描いた喜劇で「戦さをやめるまで性生活をストライキする」という女性と、男性がそれに困った結果、あれやこれやあって平和が訪れるまでの顛末を描いたもの。その、初の全訳です。

初の全訳なのに、ビアズリーの描いた挿絵8点が過激だったため、私家版として100部発行されるに留まりました。スミザーズ、どんな気持ちだったのでしょうね……。

くだんの挿絵が展示されているのですが、さすが私家版100部のみの発行にさせる露骨に卑猥な絵。展示スペースはオシャレにR18です。

ビアズリーは数年後、死期を悟ると、よからぬ絵は全て破棄してほしいと切願していたそう。その思いとは裏腹に現代まで残ってしまっているのは何ともいえない気持ちになりますが、晩年の作風をよく伝えていると捉えれば……。

ありがたいけれど、本人の気持ちさぁ……ですね、個人的にはやっぱり。

「髪盗み」は挿絵だけでなくフォトスポットも

こちらはフォトスポットの『髪盗み』。壁一面に大きなパネルで展示されています。

実物はもっとショッキングピンクなのですが、光の加減と筆者の腕がオレンジに見せてしまって悔しいところです。

公式図録の表紙にも採用されているこちら。表紙だけでなく、ストーリーを表す挿絵ももちろん素晴らしいので、ぜひ見ていただきたいですね。

それぞれのシーンの、登場人物たちの表情がとても豊かに描かれていて。怒っている女性も、バツが悪そうに茶化そうとしている男性も、実に「こういう顔するよね〜」という表情で描かれています。

会期は2025年5月11日まで。KITTEを抜けて東京駅から徒歩5分

2月末の18時頃。とても好みの色合いの景色が撮れました。

2025年2月15日から、三菱一号館美術館にて開催中の『異端の奇才 ビアズリー展』。会期は5月11日まで。

異端の奇才と呼ばれたビアズリーの表現力豊かな作品の数々を、じっくりたっぷりと楽しみに足を運んでみてはいかがでしょうか。来たるゴールデンウィークのお出かけ先としてもおすすめです。


『異端の奇才――ビアズリー
』 公式サイト

⚫︎会場
 三菱一号館美術館
 東京都千代田区丸の内2-6-2

⚫︎会期
 2025年2月15日〜5月11日

⚫︎開館時間
 10:00-18:00
 ※祝日を除く金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は20時まで
 ※入館は閉館の30分前まで
 月曜休館 ※ただし4月28日、5月5日は開館

⚫︎観覧料
一般 2,300円
大学生 1,300円
高校生 1,000円

毎月第2水曜日「マジックアワーチケット」 1,600円
※当日の17時以降に同館チケット窓口でのみ販売します。

※価格はすべて税込
※障害者手帳をお持ちの方は半額、付添の方1名まで無料
※お得なチケットについて詳しくはチケット情報をご覧ください

⚫︎アクセス
 JR「東京」駅(丸の内南口)徒歩5分
 JR「有楽町」駅(国際フォーラム口)徒歩6分
 東京メトロ千代田線「二重橋前(丸の内)」駅1番出口徒歩3分
 都営三田線「日比谷」駅B7出口徒歩3分

⚫︎巡回先
 2025年5月24日~8月31日 久留米市美術館
 2025年11月1日~26年1月18日 高知県立美術館

三菱一号館美術館公式サイト

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蓮水おり(ori hasumi)

美味しいものと美術展とライブをテンション高めに楽しむワーママでバンギャ。コーヒー歴15年超の、J.C.Q.A.認定コーヒーインストラクター2級。12星座をモチーフにしたオリジナルブレンドのコーヒー屋を営んでいます。

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