書の展覧会のどことなく敷居が高いイメージを払拭する楽しさにあふれている『石川九楊大全 後期 【状況篇】』。熱い九楊作品愛に溢れた実行委員会の方にお話を伺いながら、楽しく拝覧してきました。
20代の頃の作品を紹介したvol.1に続いては、絵画的な印象をより色濃くしていく30代〜40代の作品と、九楊先生が「近代最高峰」と位置付ける俳人・河東碧梧桐の句を書で表現した作品をご紹介します。
甲骨文字が醸し出すシュルレアリスム的雰囲気
シュルレアリスムからキュビスムへ向かう時代の絵画作品のような印象を受けたこちらの書は「逆説・陰影・十字架(三幅対)」。クレーやカディンスキーの描く線を感じつつ、なんと書いてあるのかしら? と足を止めます。
十字架、わかる。陰影、あぁなるほどわかる。逆説? 逆説?? あー逆さま!! えー楽しい〜!! といった調子で、第三室を進んでいきます。
この少しポップな書体は九楊先生の生み出した技法かと思いきや、ベースは甲骨文字。弘法大師空海もこういった作品を残しています。
何かを学び作品を生むというのは、先人の拓いた道を主体的に歩み、その先を拓いていくことのように感じました。
こちらは甲骨文字を越え、顕微鏡を覗き模写したかのような作品。
それぞれの文字の右下に漢字が添えられていますが、それでもどこが何を表しているのか悩むところがあります。目を凝らし集中して線を追っても、ここがこの画に? なるの? という不思議な形。
注視して読み解こうとするよりも、引きでパッと目に映った瞬間がいちばん、言葉を捉えられたような気がします。
打って変わって、太く力強い筆致の作品。上のふたつの作品の持つポップな雰囲気や可愛らしさとは違った趣で、どこか物々しい、ネガティブな熱と圧を感じます。
同じ甲骨文字に倣った形なのに、言葉の意味によって、こんなにも放たれる空気が違うものになるとは実に興味深い。これはやはり、単に文字ではなく“言葉”を表現しているからなのでしょう。
ヨーロッパの画家の描くシュルレアリスム作品のような、作中に放り込まれて空気や温度を感じる思いがしました。
自由律俳句の魅せる風景画的言葉たち
第四室は、俳人・河東碧梧桐の句を書で表現したもの。碧梧桐は書家としても優れた作品を残しており、九楊先生も《碧梧桐は近代最高峰》と位置付け、その作品を所有もしているそう。
碧梧桐の俳句は、七五調にとらわれない自由律俳句。日常を描き出す句が多く、また自由律ということもあり、どこか心に引っ掛かるような言葉が多く連ねられています。
また、展示の中に混じる赤い額縁は、作品を書くためにサインペンでイメージを描き出した習作。どこか西洋美術的な印象で、西洋画家の習作や線描の自画像のような雰囲気も感じられます。それは、西洋美術館でお見かけしました? と思えるほど。
まるで景色や情景を描いたように見える作品も、全て言葉が書かれています。記号のような文字のひとつひとつの形を追っていくと、漢字やカナの構成が見えてきます。文字と認識してもなお、引きで見るとやはり絵のように見えます。
まるで花火が打ち上げられた空のような印象を受ける「遠花火音して何もなかりけり」という句を書いた作品。音はするのに花火は遠くて空には何も見えないのか、何とも切ないな、という気持ちになりました。
絵画的に見せるための手法とも思える線の震えに至るまで、長年にわたり培われてきた書の技術が込められているのだそうです。奥が深い。
『石川九楊大全 後期 【状況篇】』は、7月28日まで上野の森美術館で開催中
内容盛りだくさんで、これまでの書道展にはない楽しみ方のできる『石川九楊大全』は、上野の森美術館で2024年7月28日まで開催されています。
洋の東西を問わず、海外から鑑賞に訪れている人も多く見受けました。書の文化に触れられるのはもちろん、奥深いエンターテインメントとして純粋に楽しむこともできます。
見るたびに発見のある作品を行ったり来たりすると、どっぷり浸って3時間くらいは楽しめそう。
『石川九楊大全 』公式サイトはこちら
チケットの購入はこちらから
第一室〜第二室をご紹介するvol.1はこちら。