JR東京駅丸の内北口改札を出てすぐの東京ステーションギャラリー。旅の始まりを臨む場所で開催されているのが『空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン』展。
作品の中では、誰だってどこにだって行ける。自由な《空想旅行》をゆったりたっぷりと楽しんできました。
『空想旅行案内人』はフォロンの肩書き
展示のひとつめはなんと、フォロンの名刺。「空想旅行案内人」とは、フォロンの肩書きでした。
画家でも作家でもなく「空想旅行案内人」。作品の中では自由に旅ができる。自身はその案内人である、ということだそう。
作中に登場する、帽子の小さな人「リトルハットマン」と行く旅へのわくわく感が増すというものです。
キッズガイドは空想世界を覗くメガネ付き
ギャラリーに入ると左手に、作品リスト以外に見慣れぬカラーの紙があり、気になって見てみたらキッズガイド!
訪館当日は夏休み期間中ということもあり、子どもたちもたくさん鑑賞にきています。こういうのあると、楽しみが増えていいですね!
子どもが疑問に思いそうなことが、簡潔にわかりやすく説明されています。娘が小さいときにこういう出会いがあったらよかったなぁ、なんて。
空想旅行案内人は1枚の壁画から
展示室を進みながら、どことなく線や色の雰囲気、作品の持つ空気感がマグリットに似たところがあるなぁと思っていたら、どうやらフォロンの創作の始まりに影響していたよう。
幼い頃から紙とペンを持ち、絵を描いていたというフォロン。迷い込んだカジノの建物にあったマグリットの《魅せられた領域》という壁画が心に触れ、そこから創作にのめり込んでいったのだそうです。
モチーフにするのは観察を重ねた日常
作品を見ていると、日常にあるものを観察し、さまざまな視点から想像を広げて描き出されたものがたくさんあります。ただ視野にとらえるだけでは“それ”にしか見えないものも、フォロンは観察を重ねることでさまざまなものに変化させます。
洗面台やネジで留められたフックなど、3点のマルが顔に見えたことがある人は、少なからずいるでしょう。他にも、タイヤのホイールとレモンの切り口が似ているなぁ、とか、船って帽子みたいだなぁ、とか。
そういった日常の中のあらゆるものを観察し、空想の世界を広げていきます。
また、人間の思考や選択、戦争、環境問題などをモチーフにした作品も多くあります。提起される問題とそれを表現した作品は、それぞれに違った重さの空気をまとっていて「作品の中では自由に旅ができる」を、より色濃く感じさせられました。
また、思春期に出会っていたらこの世界にのめり込んでいただろうな、とも感じました。
フォロンは、商品や興行のポスター、雑誌の表紙、挿絵なども多く手がけており、世界中で500以上の言語に翻訳された《世界人権宣言》の挿絵も、アムネスティ・インターナショナルからの依頼を受けて描いています。日本語版では、詩人・谷川俊太郎の優しい言葉に、フォロンの視覚化したイメージが添えられています。
インクや墨で描かれたモノクロのドローイング作品もたくさん展示されています。わかりやすいモチーフの作品もありますが、多くが無題。なにを思って描かれたのかを想像しながら見てまわるのも楽しいでしょう。
これらのドローイング作品は、フォロンが世に広く知られるきっかけにもなったそうで、確かに惹きつけられるものがあると感じました。日常を観察して、そこから想像する世界をシンプルに描き出す。
ひとつずつをじっくり見ながら考えている時間は、空想旅行へ踏み出すための荷造りを始めたような感覚がありました。
心を連れていくような彫刻もたくさん!
え? 木彫?? ツヤツヤだけど? と思った彫刻作品は、なんとブロンズ。しかしこの表面の質感が、とても木彫的。
展示されていた彫刻作品はほぼ全てがブロンズだったように記憶していますが、かなりの数の作品に「いやこれは木彫でしょう?」と思いながら近づいていき「これもブロンズかい!」ということをしました。
静かで穏やかでなんだか掴みどころのない空気をまとっているようで、それが素材を有機的にやわらかく感じさせたのかもしれません。
出口のほど近くに展示されている大きな彫像《秘密》は、これまでの空想旅行に思いを馳せるように見つめていると、またスーッと心だけが空想の中に帰っていくように感じるという、不思議な感覚も体験もしました。
東京駅直結。乗り物不要の旅へ出発。会期は2024年9月23日まで。
JR東京駅丸の内北口ドームのもとにある東京ステーションギャラリー。丸の内北口改札を出たらすぐ右手。地下鉄丸の内線東京駅から3分、東西線の大手町駅からは5分、千代田線の二重橋駅からは7分ほどと、いずれも余裕の徒歩圏内。
入り口横では、三日月のカバンを持った帽子の人がまるで空想旅行へ誘うようにこちらを見ています。
こんな雰囲気の作品もたくさん展示されています。筆者はメインビジュアルのような幻想的な作品よりも、こういったドローイング作品に惹かれて見に行きました。
さまざまな表情を持つ作品があり、時代やテーマごとに感じ取れるものの振り幅も広かったように感じます。
まさに作品の中では自由に旅ができる。
フォロンに案内してもらう空想旅行を楽しみに、東京ステーションギャラリーに足を運んでみてはいかがでしょうか。