本記事には頭蓋骨の画像が多めに含まれます。骨好きな方はたっぷり楽しめますが、苦手な方はご注意ください。
前回vol.1では、特別展『古代DNAー日本人のきた道ー』の概要についてご紹介しました。
ここからは、実際に展示を観覧して、特に気になったものをご紹介します。
骨が語る日本人のきた道

約4万年前に日本列島に到達していたというホモ・サピエンス。長く謎に包まれていた「最初の日本人」の姿が、沖縄県白保竿根田原洞穴遺跡で発見された人骨によって浮かび上がってきました。
沖縄県の石垣島で発見されたこの人骨はなんと、2万7000年前のもの!
国立科学博物館では、古代ゲノム解析でノーベル賞を受賞したスバンテ・ペーボ博士のグループと共同で研究を進めているそうで、本展の第1章ではその研究成果も紹介されています。

こちら、同じ場所に埋葬されていたお二方。他人だそうです。同じ場所に埋葬されているからといって、必ずしも血縁・親類ではなかったようですが、でも家族の形を成していたケースもあるよう。
縄文時代の家族観は思っているより複雑で、再婚や養子縁組などが頻繁に行われていたのではないかと考えられています。
DNAから得られる事実の向こうに思いを巡らせるのも楽しいものです。

骨格と残っていたDNAをもとに復元されたこの頭蓋骨の持ち主に会えるのも、古代DNA展の魅力のひとつ。
水田稲作が始まった弥生時代に登場した、朝鮮半島青銅器文化人。この人たちは、縄文人とはDNAも考え方も異なります。
この登場によって、1000年あまりの間に現代日本人のDNAがほぼ出揃ったことがわかっているそう。意外と短い間に出揃ったのですね。

一部が赤く染められた頭蓋骨は、古墳時代前期の女性のもの。この頃のこの地域では、埋葬の際に顔料をかける風習があったのだとか。
歯も全ては揃っておらず、大きな虫歯があることもわかっています。この頃は治療の術もなく、虫歯から病気を患って命を落とすことも多かったそう。

時代は少しずれますが、男性と女性の頭蓋を比較した展示もあります。個人差もあるでしょうが、頭蓋や顎の幅に違いがあるのがはっきりとわかります。眉間から鼻にかけての凹凸も、男性の方が深いのが見てとれますね。
おでこから鼻にかけてのラインの差については、以前、シャレコーベミュージアムを取材させていただいた際に教えていただいていたので、ほんとだ! こんなにはっきりわかるものなんだ! という感動もありました。
ふとしたことで知識が繋がっていく楽しさも味わえます。
出土品から知る習慣のあれこれ。土製品にこめられた祈り。

出産文土器(画像右)が見られるように、縄文時代における土器は母体の象徴であったことが推察できます。わかりやすく生を表していて、こんなに明らかな表現をする文化があったのかと、驚きました。
また、新生児の骨を土器棺に入れて埋葬されていたものも出土しています。母体の象徴である土器に新生児の骨を収める=命の循環を願っていたようにも感じられ、当時の死生観を垣間見ることもできます。

なんとも愛らしいお顔の馬形の埴輪は、古墳中期のもの。日本列島に馬がやってきたのは、古墳時代以降なんですって。
馬の導入に伴う飼育方法のほか、須恵器生産・鉄器生産などの技術が、渡来人によって伝えられました。百済や金官加耶との交流が垣間見える、渡来品と考えられる馬具なども出土しています。
ヤマト政権が誕生して、社会が国家成立へ向けて動き出したのもこの頃です。

ゴホウラ腕輪は、西日本で成長した新興の有力者たちの威信財(=権力を誇示する希少な財物)として作られていたのだそうです。現地での消費は減っても外からの需要があったのですね。
しかし古墳時代にもバングルがあったとは……。どのようなシーンで身につけていたのでしょうね。
ともに変遷をたどってきたイヌ・イエネコ

最古のイヌの系統が日本に渡来したのは約1万年前の縄文時代。そこから7000年もの間、他のイヌと混ざらず系統を維持したというのだからびっくり。
弥生時代になると、ヒトの移動とともに異なる系統のイヌが渡来。在来のイヌと混ざり、だんだんと現在へと近づいてきました。

ヒトとともに大陸から渡来したイヌのDNAが多く混ざるようになると、のちに在来犬を保護する動きが出てきます。昭和初期に混血から保護されたのが現在の日本犬です。
現代の日本犬は、日本列島のイヌの血縁を、縄文時代から脈々と受け継いでいます。

イエネコのルーツは、中東のリビアヤマネコにつながることが、DNAをたどり証明されているのだそう。
イエネコも、イヌと同様に人との関わりが深い動物で、弥生時代に日本に持ち込まれたという説があります。しかし現代の日本猫の多くは、平安時代前後に持ち込まれたネコを祖先とすることが分かってきています。
DNA分析ってすごいですね。

ネコチャンの(ものと考えられる)! 足跡! かわいい!!
これが残されているあたり、いつの時代にも猫の可愛さはこの世の真理だったのだな……と思わされますね。
身分による骨格の差異

ここでは、町人と武家人との頭蓋の差異を、復顔像と併せて見ることができます。男女に共通していたのが、町人に比べて武家人の方が面長で顎が細い点。
現代では、生活様式の西洋化によって体型に変化が見られると言われていますが、生活や食の違いから生まれる差異が、同時代の人にもあるというのが興味深いと感じました。
近年でも仕事や環境によって、関わる人に違いがあるもの。身分によって渡来人との交流の機会の有無も差があるでしょうし、遺伝子の混交も影響しているのかもしれませんね。

各時代の日本人の身長比較のパネルも引きで見ると、性別による身長差ってこんなものか〜と感じます。しかし実際に数字を見ると、思っていたより小柄な気がしますね。
以前、人体関連の企画展にお邪魔した際に、欧米人とアジア人の骨格の違いに驚いたのですが、現代人と縄文人を並べてもなかなかの差異がありそうです。昭和生まれと平成生まれの体型差もそれなりにあるので、当然と言えば当然でしょうかね。
さて、たっぷりと展示を堪能したら、得た学びを胸にミュージアムショップへ。オリジナルグッズを吟味しに参りましょう。次回vol.3では、可愛いグッズたちを、購入品を含めてご紹介します。
特別展「古代DNAー日本人のきた道ー」
Special Exhibition: Ancient DNA: The Journey of the Japanese People
⚫︎会期
2025年3月15日(土)~6月15日(日)
⚫︎開館時間
9時〜17時(入場は16時30分まで)
ただし毎週土曜日は19時まで延長(入場は18時30分まで)。
常設展示は17時閉館(入場は16時30分まで)。
⚫︎休館日
月曜日
⚫︎入場料
一般・大学生 2,100円
小・中・高校生 600円
未就学児 無料
障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
学生証、各種証明書をお持ちの方は、入場の際に提示が必要です。
企画券などチケットの詳細はチケットページでご確認ください。
⚫︎会場
国立科学博物館(東京・上野公園)
〒110-8718 東京都台東区上野公園7-20
⚫︎アクセス
JR「上野」駅(公園口) 徒歩5分
東京メトロ銀座線・日比谷線「上野」駅(7番出口) 徒歩10分
京成線「京成上野」駅(正面口) 徒歩10分
敷地内に駐車場および駐輪場はありません。