「メキシコといえば」で想像するものって、サボテンとか民族衣装とかタコスなんかでしょうか。メキシコ=アメリカ国境の壁の件で一時期騒がしかったな、とか、映画「リメンバーミー」(2017年)なんかもそうですかね。
メキシコ料理は好きだけど、美術のイメージがてんでなかった筆者。それでもなんだか惹かれるものがあり、埼玉県立近代美術館で開催中の『メキシコへのまなざし』にお邪魔しました。
結果、多くの学びを得ながら、あれやこれやとたっぷり楽しんできました。メキシコ美術もその影響も、とても面白い!
まずは、メキシコ美術の担ってきた役割と、メキシコ人作家とヨーロッパの関係をご紹介します。
革命思想啓蒙の一端を担っていたメキシコ美術
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メキシコ美術は「メキシコ革命」と「メキシコ壁画運動」なくしては語れないでしょう。
1910年に起きたメキシコ革命では、「メキシコ的なるもの」を求める民族主義的傾向が高まり、革命以前のヨーロッパ文化偏重の潮流を否定する向きが強まります。
その後、1920年代〜1930年代にかけて起こったのが、メキシコ壁画運動。識字率が低かったメキシコで、メキシコ革命の意義や思想、メキシコ人としてのアイデンティティーなどを市民に伝えることが目的でした。
そこで、人々がいつでも自由に見られるように選ばれた媒体が“壁画”です。
そこに暮らす人々に伝える目的で制作されため、その時代に求められた役割は果たしました。しかし、作品の性質上、作品が見たいならそこへ行くしかない。なんたる自由と不自由。
メキシコ美術が世界的に評価されるようになった今も、誰にでも見られるけれど、誰にでもは見られないものとしてそこにあります。
ヨーロッパで学んだ作家が作るメキシコ美術
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メキシコの作家も多くヨーロッパで学んでおり、持ち帰った知識や技術を現地の文化と融合させて、作品を生み出していたのだそう。
キュビスムを感じる作品がいくつも展示されており不思議に思っていたら、なるほどそういうこと。
ピカソとジョルジュ・ブラックが研究を始めた頃のような雰囲気の作品が多い気はしつつ、でもカラフルだったりもして。フォービズム期のマティス作品のような印象もちょっと感じたりしました。
同時期の作品に感じるメキシコと墨西哥
「メキシコ」って漢字で書くと「墨西哥」なんですって。日米。日仏。日墨。勉強になります。
1920年代にメキシコで創作活動をしていた、メキシコ人作家のディエゴ・リベラと日本人作家の北川民次。同セクションに展示された、ふたりの版画作品に感じたのは「メキシコ」と「墨西哥」でした。
スペインやパリで学んだディエゴ・リベラ。作品には、太陽の国・メキシコらしい温度や湿度が感じられます。加えて、どことなく鷹揚な雰囲気も。ありのままの生身っぽさというか、隠すところのない人間らしさというか。
比して、アメリカで学んだ北川民次の作品にもメキシコらしい雰囲気はもちろんありつつ、併せて影を感じます。日本のシュルレアリスム作品にも感じた、表現の向こうになにか思うところのありそうな空気を感じるのですよね。
見比べたら「この感じか!」が、伝わるような気がするので、ぜひ実物を見てみてください。
どちらも版画であり、メキシコを描き、感じられるのは“人間らしさ”ではあるのですが、メキシコ人と日本人のマインドの違いが表れているのでしょうかね。面白い。
会期は2025年2月1日〜5月11日。埼玉県立近代美術館にて。
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『メキシコへのまなざし』は、JR北浦和駅西口から徒歩5分ほどの埼玉県立近代美術館にて開催中。駅前のロータリーを抜けると見える、埼玉県北浦和公園の入り口にメインビジュアルのポスターがドドンと。迷子の心配も無用です。
会期は2025年2月1日〜5月11日。3月下旬に展示替えがあり、版画作品などが一部入れ替わります。作品リストを拝見するに、結構な数が入れ替わりそう。
せっかくなので後期もお邪魔しようと考えています。
余談ですが、浦和市内にはパティスリーがたくさんあるので、展覧会の余韻を持ってお茶しに行くのもいいかもしれませんね。アカシエなんかは歩いて行けますし、とても美味しいですからね。
『メキシコへのまなざし』
会場:埼玉県立近代美術館
会期:2025年2月1日(土) ~ 5月11日(日)
※会期中一部展示替えがあります。
前期:2月1日(土)~3月23日(日)
後期:3月25日(火)~5月11日(日)
休館日:月曜日(ただし、2月24日、5月5日は開館)
開館時間:10:00 ~ 17:30(展示室への入場は17:00まで)
観覧料:一般900円(720円)、大高生720円(580円)
※( ) 内は20名以上の団体料金
※中学生以下は無料
※障害者手帳等をご提示の方 (付き添いの方1名を含む) は無料
※企画展観覧券(ぐるっとパスを除く)で、併せてMOMASコレクション (1階展示室) も観覧可。
埼玉県立近代美術館 公式サイト