さて前回は、ビアズリーがどうして「異端の奇才」と言われるに至ったかについてご紹介しました。
ここからは、ビアズリーが画業に専念するきっかけともなった、O.ワイルド著「サロメ」(1894年)と、自らの理想を形にした「イエローブック」について触れていきます。
「サロメ」の挿絵に見るビアズリーとワイルドの関係

O.ワイルド著の「サロメ」の挿絵は、画業で身を立てるに足る大きな仕事でした。独特の世界観で描き出された「サロメ」の世界。ビアズリーといえば「サロメ」の挿絵、という印象の人も多いでしょう。
これはサロメの挿絵を見ていて抱いたごく個人的な感想なのですが……
ビアズリー、ワイルドのこと嫌いじゃない? イジりすごくない?
挿絵の背景の山や月などに、それワイルドだよね? みたいな顔や人物像を描き込んでいます。しかも、ちょっとクスッとしてしまうテイストで。
白と黒の世界なので、一見溶け込んでいますが、じっくり細部まで見てみてください。居るから。ワイルドが。
ワイルドもビアズリーのこと気に入らなかったんだ?
そのワイルドも後に、ビアズリーの挿絵を「たちの悪い落書き」なんて言っていて。自分よりもビアズリーが注目を浴びたり、高い報酬を得たりしていたのが気に入らなかったんだとか。
本来ワイルドが挿絵に使いたかったのではないかと言われる、画家チャールズ・リケッツの作品を見るとたしかに、画風が違うとかいうレベルじゃないね?? という印象。
じゃあなんでビアズリーに発注しましたかね?
なぜかってそれはね、「おまえの口にくちづけしたよ、ヨカナーン」(1893)が、出版業者J. レインの目に留まったからです。
レインもまさか、こんなことになると思わなかったでしょうね。
表現活動をする人って、よほど相性がいいとか、大抵のことを凌駕するリスペクトとかがないと、真に納得のいく作品を共に作るのって難しいのでしょうね。
理想を現実化するための動き

1894年に刊行された、構想段階からビアズリーが関わっている文芸誌「イエローブック」。
この時代、結核の診療所で出会った、ビアズリーとアメリカの小説家ヘンリー・ハーランド。あまりにも簡単に、編集者によってボツにされてしまう原稿が多いことを憂えていたふたりが「発表するべき作品を自由に選べる雑誌を作ろう」と意気投合したことから刊行されます。
ワイルドが関与しないことを条件に、美術編集の仕事を受けていたビアズリー。しかしワイルド裁判の影響で、この職を追われることとなります。
ワイルド、ビアズリーに与える影響が、正にも負にも大きいね? よほど何か深い縁があるような気がしてしまいます。
会期は2025年5月11日まで。たっぷりとビアズリー作品に触れてみて。

2025年2月15日から、三菱一号館美術館にて開催中の『異端の奇才――ビアズリー』展。まだまだご紹介しきれないほど、たくさんの作品を残しています。
撮影可能な展示室だけでも、相当に世界にどっぷり浸ることができる本展。次回は、イエローブックの職を追われて以降の作品をご紹介します。
『異端の奇才――ビアズリー』 公式サイト
⚫︎会場
三菱一号館美術館
東京都千代田区丸の内2-6-2
⚫︎会期
2025年2月15日〜5月11日
⚫︎開館時間
10:00-18:00
※祝日を除く金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は20時まで
※入館は閉館の30分前まで
月曜休館 ※ただし4月28日、5月5日は開館
⚫︎観覧料
一般 2,300円
大学生 1,300円
高校生 1,000円
毎月第2水曜日「マジックアワーチケット」 1,600円
※当日の17時以降に同館チケット窓口でのみ販売します。
※価格はすべて税込
※障害者手帳をお持ちの方は半額、付添の方1名まで無料
※お得なチケットについて詳しくはチケット情報をご覧ください
⚫︎アクセス
JR「東京」駅(丸の内南口)徒歩5分
JR「有楽町」駅(国際フォーラム口)徒歩6分
東京メトロ千代田線「二重橋前(丸の内)」駅1番出口徒歩3分
都営三田線「日比谷」駅B7出口徒歩3分
⚫︎巡回先
2025年5月24日~8月31日 久留米市美術館
2025年11月1日~26年1月18日 高知県立美術館
三菱一号館美術館公式サイト
おまけ:現代と近代の交わるところ

この煉瓦造りがとても好きなんですけど、それと隣り合わせでオフィス!! という建物があるのも、お庭でビジネスマン風の人たちが並んで歩いていたり、ベンチでPCを開いていたりするのも好きです。
現代の日常にぽこっと現れた非日常。非日常だけど、ずっとある。みたいな、ありえない調和とでも言いますかね。好きです。