さて前回vol.2では、思想的な部分を表現した作家3名をご紹介しました。あーなるほど、だから壁画! とか、ここで繋がるのか……とか。作家の腹の底から湧き上がるものを映した作品が多くありました。
今回は、感情に即した表現をしているように感じた作家、深い思考から生み出しているように感じた作家をご紹介します。
日本人作家がメキシコ美術に向けたまなざし
美術作品の感じ方は、今も昔も自由で、十人十色、さまざまな受け取り方がありますね。
目に見えるもの、肌で感じるものを、受け取って直に表現に繋げる人もいれば、魅入られることを危惧する人も在るのが、美術の面白いところなのかもしれません。
利根山光人:死生観と祝祭とメキシコへの愛
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祝祭なのか葬送なのか判別のつかない雰囲気と色合いの《カーニバル66》。好み〜。メキシコでは、生活のより近いところに死を感じる死生観を有しながら、祝祭は盛大に催されます。
《カーニバル66》は、筆者にはどちらともつかないながら、死と祝祭が隣接するような色が感じられました。本当は祝祭かもしれないし死者の日かもしれません。でも、見る者が考える余白のある作品はいいですね。
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メキシコ美術の持つバイタリティや土着性にも惹かれていたそうですが、作風に大きな影響を与えたのはマヤ文明だったそう。描かれているモチーフを見ると、薄ぼんやりとした知識の筆者でも「ぽい!」と感じるものが多いですね。顔のある太陽なんて特に。
メキシコ! 好き! 土着文化愛してるぜ! とでも言わんばかりの空気を感じた《ビバ・メヒコ》。パァンとした色彩で好きです。
河原温:魅了されてしまうことへの危惧
より_1968年.jpg)
1966年に開始された、日付絵画シリーズ「Today」。シンプルでスンっとした雰囲気で、客観的な視点を常に持ち続けた人だったのかなという印象を受けました。
メキシコには1959年から1962年の3年間滞在し、美術学校で学んだのだそう。1965年にニューヨークを拠点としてコンセプチュアルアート作品の制作を開始。メキシコで受けた影響が、その下地として重要な役割を果たしていることが伺えます。
また、メキシコ美術をポジティブに捉えているように見えていた先述の4人の作家とは、少し捉え方が違っていました。
《アンケート メキシコ美術展をみて 新進作家27氏の意見 メキシコ美術展の価値化 河原温》という展示があります。その中で、メキシコ美術に一定の理解を示したうえで、新たなエキゾチシズムとして魅了されることへの危惧を表明しています。
アンケートに記載した文章ですが、そのバランス感覚が素晴らしいなと感じました。表現者の表現者たる感覚ってこうも絶妙なものなのか……。ぜひ読みに行ってみてください。
埼玉県立近代美術館は、新宿、上野からも30分!会期は2025年5月11日まで。
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『メキシコへのまなざし』は、JR北浦和駅西口から徒歩5分ほどの埼玉県立近代美術館にて開催中。駅前のロータリーを抜けると見える、埼玉県北浦和公園の入り口にメインビジュアルのポスターがドドンと。
新宿、上野からも電車で30分ほどと、意外と近い! 注目の展覧会とのハシゴもできちゃう。
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会期は2025年5月11日まで。3月下旬に展示替えがあり、版画作品などが一部入れ替わります。作品リストを拝見するに、結構な数が入れ替わりそう。
どちらも見ることで理解が深まるのはもちろんですが、純粋にたくさんの作品を楽しめるのも魅力のひとつですよね。展示全体の雰囲気も少し変わるのかもしれませんし。
余談ですが、駅の反対側にある「cinq」というカフェも、おしゃれでおいしくておすすめです。会期の後半にはショップ店頭で図録も購入できますし、ゆったりと座ってお茶をしながら図録を眺めるなんていう贅沢もしたいところですね。
次回vol.4では「なんで埼玉でメキシコ?」を解明します!
『メキシコへのまなざし』
会場:埼玉県立近代美術館
会期:2025年2月1日(土) ~ 5月11日(日)
※会期中一部展示替えがあります。
前期:2月1日(土)~3月23日(日)
後期:3月25日(火)~5月11日(日)
休館日:月曜日(ただし、2月24日、5月5日は開館)
開館時間:10:00 ~ 17:30(展示室への入場は17:00まで)
観覧料:一般900円(720円)、大高生720円(580円)
※( ) 内は20名以上の団体料金
※中学生以下は無料
※障害者手帳等をご提示の方 (付き添いの方1名を含む) は無料
※企画展観覧券(ぐるっとパスを除く)で、併せてMOMASコレクション (1階展示室) も観覧可。
埼玉県立近代美術館 公式サイト