取材に際し、許可を得て撮影をさせていただきました。一般の方の展示室内での撮影はできません。
前回は、女性ならでは/男性ならではのお洒落アイテムをご紹介しました。250点にも及ぶ展示もいよいよ終盤です。
鎖国の体制をとっていた江戸時代、お洒落アイテムに多く使用されていた織物やビロード、鼈甲や象牙などは、交易を許されていた清やオランダなどから舶来したものでした。
ここでは、特に西欧の工芸技術を用いた品や、日本の高度な技術がたっぷりと込められた珍しい作品などをご紹介します。
西欧の工芸を日本のスタイルにした金唐革
金唐革は西欧の皮革工芸のひとつで、革に金属の箔を貼り型押しで凹凸を出したり、金泥で彩色したりする加工のこと。
西欧では豪華な壁紙として用いられることが多かったそうですが、日本では煙草入れなどの袋物として人気が出て広まっていったのだそうです。
「金唐革両かぶせ一つ提げ煙草入れ兼守袋」などは、こりゃ人気も出るでしょう! というところ。さまざまな模様が組み合わされて立体的。凹凸の加減で色やツヤの出方に差があるのも味があって素敵です。
“両かぶせ”の名のとおり、叺(かます)は両面使いになっていて、片側が煙草入れ、もう片側が守り袋になっています。
かぶせの前金具は牛頭天王を象ったもの。また、根付けには「南無牛頭天王」の護符の版木が転用されており、持ち主は牛頭天王を崇拝していたと推察されます。
牛頭天王の伝説は各地にありますが川越では、川越夜戦に際して北条氏康が自軍の疫病平癒のために祀り願いをかけたところ、大勝をおさめたと言われています。
この持ち主がどこに暮らしていたかはわかりませんが、無病息災を願う気持ちは、今も昔もどこに暮らしていても、きっと変わらないのでしょうね。
精巧緻密な日本の技術。季節によって素材を楽しむ?籐製紙入れ
「籐石畳編菖蒲革紙入れ」は、展示で見えている表面に籐、背面に菖蒲革が用いられた紙入れ。B6よりひとまわり小さいくらいのサイズ感です。
外入れといわれるカバーが、ビロードと藺草(いぐさ)の2種ついています。季節ごとに使い分けていたのか、ビロード→藺草だったのか。どう持ったらより自身に馴染むか考えてコーディネートを組んでいたのでしょうか。想像すると楽しくなっちゃう。
みっちりと目の詰まった石畳編みの美しいことといったら。肉眼でわかるツヤに見て取れるものがありますが、拡大したらそれはそれは精緻。そりゃため息だって出ちゃう。すごい技術。
留め具の板鎖に使われている5色の金属は「五節句」を表しているのだそう。細やかな金彫が施されていて、これは芸術品の類では? という気持ちです。
これが日常に紙入れとして使われていたのであれば、江戸時代の粋って豊かなものだったのだなと感じますよね。身位の高い人にとっては日常の持ち物だったのでしょうかね。
あまりにも多工程展開の御細工物紙入れ
こちらの「御座船型御細工物紙入れ」は、紙入れとして作られたのか、飾るために作られたのか、飾るまでの手間を楽しむために作られたのか。
筆者には判然としませんが、手前の四角い紙入れが御座船形になるというのは、作る側も使う側も……使う側? 遊ぶ側? も、手間を楽しむことに重きの置かれたものなのかなと感じています。
江戸時代後期頃に、大奥や大名、旗本の奥向きの女性たちが嗜みとして作ったものとのこと。こんなに長い時を経てたくさんの人の目に触れているとは、思っていなかったかもしれませんね。
さて、ここまでは展示室でガラス越しに見てきました。袋物、男女のお洒落、オランダ好み、逸品・稀品と4つのセクションに分かれた展示の内容をご紹介してきました。
盛りだくさんで、全てを堪能したいタイプの筆者の鑑賞時間は2時間ほど。どう見るかによりますが、1時間〜2時間ほどで周りきれるかな、という印象です。
次回は、『江戸のお洒落装身具(アイテム) 袋物、髪飾り、そして江戸風俗の世界』をより深く楽しめる関連イベント「ミニ鑑賞会」とその作品についてご紹介します。至近距離で作品を見られる、貴重で贅沢な機会です。
『江戸のお洒落装身具(アイテム) 袋物、髪飾り、そして江戸風俗の世界』
⚫︎会期:2024年10月26日〜12月8日
⚫︎会場:川越市立美術館
⚫︎アクセス:こちらからご確認ください
⚫︎開館時間
午前9時から午後5時まで(入場は午後4時30分まで)
⚫︎休館日
月曜日(11月4日を除く)、11月5日(火曜)
⚫︎観覧料
一般 700円(560円)
大学生・高校生 350円(280円)
中学生以下 無料
※( )内は20名以上の団体料金。
※着物で来館の場合は団体料金にて観覧可。
※身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳、障害者手帳アプリ「ミライロID」を提示の本人、及び、付き添い1名無料。
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