本記事には、撮影禁止の展示室画像が含まれます。取材に際し、特別な許可を得て撮影しています。
さて前回vol.2では、『よりみち展』が美術を自由に楽しませてくれる特徴をご紹介しました。
次々に得られるよもやま話が面白くなって、どんどん気になることが増えていくという、なんとも楽しい流れが生まれる同展。行きつ戻りつたっぷりと鑑賞してきました。
ここからは、実際に鑑賞して気になった作品に触れていきます。
ダリの奇抜な技法と表現の妙

ダリのもとに「ドン・キホーテの挿絵を描いてくれ!」と、尋ねてきたのは石版を持った編集者。当時、版画に良い思いを持っていなかったダリは「この編集者め。火縄銃でどうにかしてくれるぞ!」的に、腹を立てて追い返したそう。
その後いろいろあって最終的に依頼を受けて制作しているのですが、その技法にびっくり。
火縄銃にインクを充填した弾を込め、石版にバァン!(??!)
上の画像中央の6点がその挿絵の作品ですが、インクが飛び散ったように見える部分があり、これか……と。生み出した人、想像を超えてエキセントリックですね。編集者は無事でよかったね……。

大きな「アルゴス(孔雀)」(1969年)のタペストリーは、ギリシャ神話に登場する百眼の巨人アルゴスの死後を描いたもの。詳しくは下記のコラムをご覧いただきたいのですが、ゼウスさぁ……。
ギリシャ神話について深く知らなかったので、お話を伺えば伺うほど、ゼウスあんた……だし、ヘラがどんな気持ちで……ですよ……。
空で魅せる光が描く風景の表情

「虹、ソールズベリー大聖堂」(1834〜37年)は、モノクロなのに虹だとわかるのすごくないですか?!
虹は晴れた空と日の光に七色の曲線で表されるとばかり思っている素人目に、ひと目で「虹の出ている水辺の風景」だとわからせる、この表現力。
コンスタブルは初めましてだったのですが、細部まで見れば見るほど面白いなと感じます。雲から光が溢れて見えている感じなんて、こういう空知ってる! と、ちょっと湧き立つものがありました。

こちらは公式マスコットキャラクター【ももわら】の実家ともいえる、シスレーの「積み藁」。“空の画家”とも言われるだけあり、空の見せる光の感じがとても印象的。
あまり強く照っている感じではないから午前中かな? でも影は濃いからお昼ちょっと前くらいかな? なんて想像が膨らみます。
作品から【ももわら】が飛び出てきた足跡があるのも『よりみち展』らしい演出で、カジュアルな遊び心を感じますね。
奇抜な写真作品のアナログな撮影手法

フィリップ・ハルスマンが撮影したダリの写真作品の制作時期は、1950〜60年代。その時代にどうやって撮ったの?! と思わされる作品が多く残されています。現代のようにCGやAIでどうにでも、みたいなことはなかったですものね。
作品と併せて制作過程が展示されている作品もあります。その中には、そういうこと?! と思わず笑ってしまうような方法で撮影されたものも。
絵画や版画作品もユニークなイメージが強いダリですが、ひらめきや柔軟性の高さが、唯一無二の世界観を生み出していたのだなと強く感じました。
シュルレアリスムは映画でも

第四展示室で上映されているのは、映画『アンダルシアの犬』(1929年)と『黄金時代』(1930年)。ルイス・ブニュエル(監督・脚本)とサルバドール・ダリ(脚本)によって製作されたフランスの映画です。
『アンダルシアの犬』は、ブニュエルとダリが出し合ったアイデアを断片的に繋ぎ合わせた、実験的ショートフィルム。明確なストーリーは感じられず「映画の機能を否定した映画」とも言われたり、グロテスクな表現も含まれますが、シュルレアリスムの傑作と評されています。
『黄金時代』は政治的な思想の絡む事件があり、その後50年も発禁になっていたのだそう。どちらも刺激的な作品なので、鑑賞の際は注意してくださいね。
素晴らしい景観も併せて楽しみに行ってみて!

敷地内に入ると、川のせせらぐ音が心地よく、視界が開けるとシンプルで美しい建物が。曇天も静謐で美しいですが、晴れた日の爽快な美しさもぜひ見てほしいんですよね。どっしりと構える建物と、木々の緑と空の青のコントラスト! なんて贅沢なんでしょう!
バスを降りた瞬間の空気の美味しさから感動があるので、ぜひとも体感してほしいと感じています。
『よりみち展~美術のみかたが広がるよもやま話~』
■ 会 期
2025年7月19日(土)~11月9日(日)
■ 主催・会場
公益財団法人諸橋近代美術館
福島県耶麻郡北塩原村大字桧原字剣ヶ峯1093番23
アクセス詳細
■ 休館日
9月17日(水)展示替え休館
※他、定休日等なし
■ 時 間
9:30〜17:00(最終入館は16:30まで)
■ 観覧料
・一般 ¥1,300 (¥1,000)
・高校・大学生 ¥500 (¥300)
・中学生以下 無料 (無料)
※カッコ内は団体料金(20名以上)。
※詳細はこちらからご確認ください。
■ 会期中イベント
◎ 10/19(日)【ZOOM講演会】モロビ大学第20回「郡山市立美術館のよもやま話
◎10/25(土)【ハイブリッド開催】トークセッション「会津のミュージアムよもやま話」
■ 公式サイト
展覧会「よりみち展~美術のみかたが広がるよもやま話~」
公益財団法人諸橋近代美術館