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【2000円】孤高の芸術家?『パウル・クレー展――創造をめぐる星座』でクレーの内側を覗くvol.2〜線、色彩、戦争との関係

兵庫県立美術館にて開催中の『パウル・クレー展――創造をめぐる星座』。前回は、同展がどのようなものなのか、クレーが孤高と言われたのは何故かをご紹介しました。筆者の個人的な胸アツポイントも少し。

ここからは、実際に鑑賞して気になった作品をご紹介していきます。6つの章に分けて展示されている中から、今回はまず第3章まで。

1章:詩と絵画

クレーがミュンヘンのアカデミーに学び、故郷のベルンに帰郷後、再びミュンヘンにてカンディンスキーやフランツ・マルクら、青騎士の芸術家たちと出会うまでの作品をご紹介します。

「老いたる不死鳥<インヴェンション>より」(1905年)/パウル・クレー/宮城県美術館蔵(前期展示)

このなんとも言えなさに惹かれて、行きつ戻りつ何度も見てしまった不死鳥。不死鳥なのになぜ老いた姿を描いたのか不思議ですよね。

この「老いたる不死鳥」“歴史は繰り返す”的な意味を含んでいるそう。革命の成功と旧体制の復活という具体性を遠ざけるように老いた不死鳥を描くことで、人間の根源的な悲劇性を強調させています。

「若い婦人(光のフォルム)」(1910年)/パウル・クレー/宮城県美術館蔵(後期展示)

こちらは、線が表すのは人物の輪郭や影ではなく、光。実際に目にみえる身体の輪郭を歪めても、光のエネルギーを形に現そうとしているように見えます。

画像だとどうしても見え方が変わってしまうので、こちらはぜひとも実物を見てほしいですね。

カンディンスキー作品の色彩

線を重視し、色彩表現について認めてはいたものの実践には慎重だったというクレー。しかし、カンディンスキーら青騎士の芸術家たちとの交流を経て、色面で構成される水彩画の制作を試みたのだそう。

ここでは、カンディンスキーによって異なる技法で描かれた、豊かな色彩表現を楽しめるふたつの版画作品をご紹介します。

「夕暮れ」(1903年)/ヴァシリー・カンディンスキー/愛知県美術館蔵(前期展示)

すっきりとした線とビビッドな色合いの抽象絵画のイメージが強いカンディンスキーですが、こんなに静の印象の版画作品もあるのですね。存じませんでした。

「夕暮れ」は木版ということもあり、彫った線にやわらかさが感じられます。

「鏡」(1907年)/ヴァシリー・カンディンスキー/愛知県美術館蔵(後期展示)

こちらも同じく版画作品ですが、リノリウム(※)を版材としており、線の印象がややシャープ。装束と思われる布にも動きや落ち感が見え、表情も相まってとても魅力的です。

※バレエの床シートなどに用いられる、樹脂、木粉、コルク粉などを油で混ぜ、ジュートなどの布に塗布して固めた素材。

2章:色彩の発見

1912年にパリを訪れたクレー。色彩表現に衝撃を受け、その後チュニジアを訪問し、色彩に目覚めます。青騎士に参加した芸術家の作品もたくさん展示されています。

「無題」(1914年)/パウル・クレー/パウル・クレー・センター蔵(ベルン)

こういうの、クレー感溢れていて大好きですね! 線、モノクロ、濃淡、余白、アシンメトリー。さらに、どこかふわふわして掴みどころのない印象とか。

キュビスム的な印象を受ける「無題」ですが、キュビスムでは実在のものを切子面的に描くのに対し、抽象的な形が描かれています。キュビスムが抽象表現に行き着く示唆なのか予言なのか。

「北方の森の神」(1922年)/パウル・クレー/パウル・クレー・センター蔵(ベルン)

キュビスムの手法を用いているように見えるのですが、奥行きがほぼ感じられず、平面的な印象です。

先述のとおりキュビスムって、現存するものをシンプルに直線的に表す印象だったのですが、神を描くあたりがクレーだなぁ、と。現実は飛び越えてしまっていたのでしょうかね。

「三人のアラビア人」(1915年)/パウル・クレー/宇都宮美術館蔵(後期展示)

こちらは人物が3人描かれた「三人のアラビア人」。アラビア人とされているけど、実はチュニジア旅行で気を許した、クレーとモワイエとマッケの3人の楽しむ様子を残したのかもしれません。

後に、3人のことをよく知るヤウレンスキーとの作品交換に使用しているとのことから、私的な意味が含まれていても不思議はないかもしれませんね。

3章:破壊と希望

第一次世界大戦で青騎士の友人を失ったクレーは、戦争への批判的な態度を強めていきます。シンプルな線に思いを込めた挿絵や、自作を切断・再構成した作品などをご紹介します。

(左)「理想のための死『ツァイト・エコ』1巻(1914−1915年)7号より」(1915年)/パウル・クレー/個人蔵

はい、こちらも黒い線のみで構成された作品。街をキュビスム的に描いた印象を受けます。シンプルな線だけど、揺らぎや不確かさが感じられるようです。

クレーが前線に行くことはありませんでしたが、戦争の先に理想の実現を求めて戦死した友人らを、少なからず意識していたのではないでしょうか。

「深刻な運命の前兆」(1914年)/パウル・クレー/パウル・クレー・センター蔵(ベルン)

戦争で友人・知人を失ったクレー。身近に迫ってくる戦禍から心を守るために、戦禍をあえて抽象的に描いたのではないかと言われています。

また、下の画面の下端と上の画面の上端の絵柄に連続性が見られることから、1枚の絵を切断して再構成されたものであることがわかります。

戦禍を描いた作品といえばピカソの「ゲルニカ」ですが、それともまた違った描き出し方があるのだな、と感じます。心や視線を向ける先に、それぞれの色があって興味深いですね。

展示風景

この辺りは、クレーと他の芸術家の作品が入り混じっての展示が多く、コントラストも楽しめます。

画像中央の作品に触発されて制作した作品もあるそうなので、影響を受けたと思しき点を探してみるのもいいかもしれません。

「ph博士の診察室装置」(1922年)/パウル・クレー/宮城県美術館蔵(前期展示)

診察室×装置。好きですね。機械的なものが不安定に浮かぶように描かれていつつ、こういうものとして存在し得そうな雰囲気がたまりません。

不均衡なバランスがまたソワッとしますが、不思議な揺らぎの中にあるようで面白く感じます。

さて、続くvol.3では、シュルレアリスム、バウハウスなど、クレー色濃く活躍した時代から、晩年までの作品をご紹介していきます。

2025年4月13日撮影。美術館入り口。

『パウル・クレー展――創造をめぐる星座』

■会期
2025年3月29日(土)〜5月25日(日)
■会場
兵庫県立美術館 3階
アクセス(美術館公式サイト)

■観覧料
・一般 2,000円
・大学生 1,500円
・70歳以上 1,000円
障害者手帳等をお持ちの方
・一般 500円
・大学生 350円
※障害者手帳等をお持ちの方1名につき、その介助の方1名は無料
※高校生以下無料
※予約制ではありません。混雑時は人数制限を行いますのでお待ちいただく場合があります
※一般以外の料金で利用される方は証明書を観覧当日にご提示ください
※コレクション展の観覧には別途観覧料が必要です(本展とあわせて観覧される場合は割引があります)

■休館日
月曜日

■開館時間
午前10時〜午後6時
入場は閉館30分前まで

『パウル・クレー展――創造をめぐる星座』公式サイト
兵庫県立美術館 公式サイト

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