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【2000円】『石川九楊大全 後期 【状況篇】』で、雨のように降りそそぐ言葉を、溢れ来る思いを、熱を受け取る vol.3

書の展覧会なのに絵画展のような『石川九楊大全 後期 【状況篇】』。お話を伺ったり掲出されている作品の説明文を読み、背景や予備知識をインプットしながら、いよいよ終盤です。

より絵画的な印象の色濃い時代のvol.2に続いては、最後の展示室となる第五室。自身で紡ぐ言葉を書き表わした現在に至るまでの作品をご紹介します。

絵画的イメージので紡ぎ出された自作詩文作品

九楊先生ご自身の言葉を書かれた作品がずらりと並ぶ第五室。

世界で頻発する危機をテーマにした自作詩文作品。シュルレアリスム絵画的雰囲気のある作品ですが、これらは全て文字で構成されており、九楊先生ご自身から生まれ出た言葉を書いたものです。

余白を見て書くという書の特徴を利用して、右側の行の文字に干渉する形で書き進められているとのこと。この線の繋がりが、文字で言葉でありながら、絵画やアート作品のような印象を作り出しているように感じます。

敗戦古稀 其一(2015年)

驚くべきことに、この作品の中には、左側に掲出されている文章が書き収められています。右上から順に書き進められているものの、これだけの余白を持たせながら、詰め込まれた情報量の多さ。

どこか街なのか里山なのかという、景色を思わせるような構図で書かれていることも興味深く。こういう絵、ありますよね。全体の雰囲気はマグリットのようだし、書き込み感はヒエロニムス・ボスを感じさせたり。

敗戦の年に生まれた九楊先生は、胎児の記憶として戦火を見ているように感じており、そこから生きる中で見聞き感じ収集した情報を消化した考えを「敗戦古稀 其一」に書き記しているように、原文を読んで感じました。

これだけの文量、情報が、これだけの余白を持っている。この余白は、見る人が自分で考えるための余地だったりするのかな、とも思わされます。

「ヨーロッパ戦争」のさなかにーー人類の未熟について(2023年)

筆者が一目惚れした作品がこちら。ウェブでこの作品を見て「なにこの展覧会! 気になる!」と感じた、出会いの作品です。

「運命のファゴット・ソロ」や「塔の理念」(ともに1918年)といった、パウル・クレー作品のような空気を強く感じました。どちらも線の強弱で魅せる印象が強い作品で、西洋に“書”はなかったにせよ、近い表現はなされていたのかもしれませんね。

また、大小さまざまな“丸”で表現されているのは、口、田、日などとのこと。目を凝らしてみると確かに世界って書いてある! とか、こういう発見がたくさんあります。楽しい。見れば見るだけ、新しい発見があって、本当に面白い!

硬筆手書き文字の用途による差異もまた、書家らしさを醸し出す

直筆 講演・講義レジュメ。

こちらは「人に読ませるため」の書面。美しく整った書式と書字。画像は広義のレジュメということもあり、たくさんの人の目に触れる、たくさんの人が読むことを前提に書かれたもの。

まるでフォントのように整った文字は、基礎力の高さをこれでもかと感じさせます。やはり基礎の修練度の高さは、書だけでなくこういったところにも発揮されます。いっそスキャンして「九楊フォント」とかにしてもいいのでは?と思ってしまいます。

こちらは著書などの原稿。自分と特定の人しか見ないものであることから、先述のレジュメとはまた違った形の文字を書かれています。

こちらは整える意識よりも、書き進めることを主としているように感じますが、だとしても読ませる力が強い!

ものすごい量の著書をお持ちの九楊先生ですが、原稿の量も、もっともっとたくさんあるものと推察します。著書だけでなく、書作品の元となる文章もあるのかと思うと、作品の赤ちゃんを見ている気持ちに。

これが育ってあの存在感を放つのだから、ものすごいことです。

これもそうだったの?!という作品がエントランスに!

エントランスを入り、右手の壁沿いから突き当たりには、写真撮影OKの展示があります。いやはや、知らずに九楊作品を見ていたとは……

注目の次期大河ドラマの題字も手がける

大河ドラマ、熱心に観ておられる方も多いでしょう。筆者、観られておらずで存じなかったのですが、なんと! 題字を担当なさったとのこと!

漢字の作品は、これまで見てきた作品のような雰囲気もありつつですが、ひらがなの『べらぼう』は“書!”という感じがして親しみやすさがあります。実際に題字に採用された作品はNHKにあるとのことですが、その雰囲気は感じられるように思います。

これに映像加工がされて、どんなふうになるのか、今から年明けの新大河が楽しみです。

日本酒好きには馴染みの深い「八海山」も九楊先生の作品

えー! めちゃくちゃ馴染みがあります! となったのが「八海山」のラベル。知ってました?

大概どこのお店にもラインナップされている「八海山」。日本酒好きなので、いただく機会も多いのですが、えー? 知らなかった! 次回飲むときはちょっと違った気持ちで飲めそう。

こちらも八海山ですが、少しずつ趣が違って面白いですね。

『石川九楊大全 後期 【状況篇】』は、上野の森美術館で7月28日まで!

『石川九楊大全 後期 【状況篇】』の会期は、2024年7月28日まで。閉幕まで2週間ほどと、差し迫ってはきているものの、まだチャンスはあります。

大人はもちろん楽しいけれど、子どもが楽しめる要素もあり。ゆったりと楽しみたい人は平日の午前中に行くのがおすすめ。とはいえ、空間が広くとられているので、多少の混雑くらいならば賑わいを感じられていいかも。

何となく難しそうだな、敷居高いな、というような、書道展に対するイメージを軽やかに払拭してくれた『石川九楊大全 後期 【状況篇】』。新たな楽しみを見つけたい人には、ぴったりの展覧会です。新しい扉を開きに、ぜひ足を運んでみてください!

『石川九楊大全 』公式サイトはこちら
チケットの購入はこちらから

ポップな作品がたくさん見られる大三室〜第四室の紹介はこちら。

おまけ。上野で展覧会を見たらコレよね!

上野といえばやっぱりこれよね! 暑い日に木陰で飲むビール、いいね! と思ったものの、さすがに暑すぎたので今回は室内から。展示の内容を思い返し、あれこれと考察しながら飲むビールの美味しさたるや!! たまらん!!

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