2013年にユネスコの無形文化遺産に登録された和食。その豊かさは世界でも注目されており、日本食レストランの盛況をメディアで目にする機会も多いでしょう。
今回は、家庭にまで浸透する和食の豊かさを可視化して見せてくれる、国立科学博物館で開催中の『特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」』をご紹介します。
自然の豊かさが日本の食の豊かさを作る
和食の豊かさの根底にあるのは、日本の自然の豊かさ。列島を囲む海では貝や魚だけでなく海藻類も豊富に得られます。さらに、日本の地形は起伏に富んでおり、国土の約75%は山地。山菜やキノコなどが自生しており、さらに、地域ごとの風土に合った野菜の生産も盛ん。和食の豊かさは、豊かな自然に育まれる食材に支えられれています。
「あるから食べる」の精神が育てたきのこ食
日本に自生するキノコの種類は3000種を数えるといいます。それぞれが自生に適した樹種を選んでおり、これだけのキノコの存在は森の豊かさの証明ともいえます。
約3000種のキノコのうち、食べられるきのこは約800種類。それ以外は毒キノコで、誤って食べると重篤な症状を引き起こし死に至るものも。展示の中に「かつては食用とされていました」という表記があり「かつては? どのように?」という疑問を持ちながら、尊い犠牲があったのだろうと推察します。
あるから食べていいというものではない気はしますが、こうした先人の経験によって安全が作られてきたのでしょうね。
なにげなく食べている野菜にも、大きな学びがたくさん
知っているようで知らないもので、多くの学びがあった野菜の展示。原産をアジアだと思い込んでいたら実はヨーロッパだったり、意外なものが奈良時代から食べられていたりと、徐々に広がってきた食の豊かさをいかに当たり前に享受しているかを痛感します。
また、日本食に欠かせない野菜代表とも言える大根は、気候風土に合わせた品種が多く全国各地でそれぞれに合わせた調理方法で食べられています。収穫前の土の中の状態を模した展示があり、その模型の数はなんと20種超! 見たこともない種類のものやどう食べるのか謎だった品種にも、それぞれ適した食べ方が併記されていました。
名前や姿は似ていても、その実態は非なり。魚の種類や食べ方の豊富さも、和食ならでは。
日本近海は魚も驚くほど豊富。展示されているレプリカは、出世魚代々、ヒラメとカレイの違いのような基礎知識的なものから、同じ種のような名前がついているけど実はヒョウとヤマネコぐらい違う、なんて物までものすごい量。さらに、日本列島を囲む海が表示された大きなタッチパネルに触れると、どこでどんな魚が獲れるかを表示する映像展示もありました。
海藻食が豊かなのも日本ならでは。日本列島が南北に長く寒暖両方の海流があることから海藻の種類も豊富で、古代から食用として30種も流通しているのだそう。乾燥ワカメやだし昆布などの加工品も多く、古くから美味しく食べる工夫がなされてきました。海藻を広げた様はなかなかアートで、展示室の天井を伝う長昆布にはクスッとしました。
発酵やだしが生み出すさらなる和食の豊か
納豆や漬物など、食卓にのぼる機会の多い発酵食品。これらは、微生の働きで素材が変化してできたもの。酒、しょうゆ、味噌、かつお節、昆布なども、発酵の過程を経て作られています。
同様の微生物の働きで腐敗してしまう素材もありますが、起きている変化は発酵と同じ。この腐敗と発酵をジャッジしているのは人間なのだそう。つくづく先人の知恵の蓄積が築いてきた食文化なのだなと感じます。
鰹節や昆布などを使って取るだしは、うま味成分であるアミノ酸を豊富に含んでおり香りも豊か。食材にだしのうま味を移すことによって、本来の味を変化させて新たな美味しさを生み出し、食の幅を広げてきました。
美しい彩りと多彩な料理で大切な人をもてなす気持ちを表す
ぜひ実際に展示を見てほしいのが、卑弥呼の食事。出土した土器などから推察して再現されたもので、真鯛の塩焼きや干物、貝の煮物、野菜を混ぜた炊き込みご飯など「あの時代に?!」という豪華さ。品数の多さとバラエティの豊かさは目を見張るものがありました。
また、織田信長が徳川家康をもてなした膳も驚くほどの品数。五の膳まであるフルコースで、どの膳も小皿小鉢が4〜7つ。贅を競う時代とはいえ、もてなす気持ちの表し方に財を感じました。もてなされたほうは、さぞ気持ちよかったでしょうね。
個々人の持つ「和食とは」を考えるきっかけを得る
「和食」と聞いてイメージするのは、普段おうちで食べるなにげない、名前もつかない家庭料理でしょうか。それとも、特別なときに出向いて利用する、繊細で静謐な懐石料理でしょうか。
お寿司や天ぷら、お蕎麦など、わかりやすく和食にカテゴライズできるものがある反面、舶来だと信じていたものが実は日本発祥だった、なんてこともありますね。見る人にとって何が和食かの認識を問う、リアルタイムアンケートも行われていました。選択肢は、コロッケは? トンカツは? あんパンは? カレーは? ラーメンは? など。
また、国内の食料自給率の低さにも触れ、農家の継ぎ手がいない問題は、Uターン、Iターンでの就農支援を実施することで軽減、解消。絶滅が危惧される食用のうなぎについては、卵を孵化させるところからの完全養殖に向けての取り組みが実施されるなど、さまざまな分野で和食文化を守るための動きがなされています。
和食について網羅的に学べる「和食展」東京での会期は2024年2月下旬まで
普段なにげなく食べているものがどこからきたのか、いつから食べられているのか、どのようにしてできているのかなどを知り、「そういえば和食ってなんだろう?」と考えるきっかけとなった「和食展」は、2024年2月25日まで。大充実の内容で模型展示も多く、子どもから大人まで広く楽しめる構成で、気づけばたっぷり3時間も滞在していました。
各地からのアクセスもよく、お天気が良ければ散策も楽しめる上野公園内での大規模展示。春からは全国を巡回する予定になっています。身体を作っている食材や、生きていく上で欠かせない食について深く知り考えてみてはいかがでしょうか。